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複雑な覚醒系のシステム

西野精治

著者:西野精治
米国スタンフォード大学医学部精神科教授 スタンフォード睡眠・生体リズム研究所所長 医学博士
https://profiles.stanford.edu/seiji-nishino

本サイトは西野精治氏による著書「睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する」の内容を、著者及び株式会社KADOKAWAより許諾を得て一部掲載しています。お買い求めは上記リンクが便利です。
※ 図版・テキストのレイアウト・表現など、本書と本サイトの内容は一部異なる場合があります。
覚醒・睡眠調節機構は相反する、の図

 睡眠・覚醒における、具体的な神経活動のメカニズムについての研究も進んでいます。まだわからないことも多いのですが、覚醒時に作用する神経伝達物質はノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、ドーパミンやアセチルコリンなど複数あることがわかってきています。睡眠時に作用するのは、GABA(γ-アミノ酪酸)になります。

 覚醒時の物質が複数あるのは、起きているときの人間の活動を支えるには複数のシステムが必要だからだと考えられます。

 覚醒するといっても、認知するとか集中するとか、いろいろな機能が活性化しないと完全に覚醒しているとは言えません。大脳皮質が活性化されているだけではなく、いろいろな機能が覚醒してはじめて、起きているということになるからです。

 たとえば、覚醒時の物質のひとつであるヒスタミンだけを薬(抗ヒスタミン剤)でシャットダウンすると、起きていても判断力や注意力がなくなるボーッとした状態になります。

ドーパミンは緊急時のシステム

 覚醒系のシステムは、基本的に起きているときには活発になり、寝ているときは活動が弱くなります。一部のシステムを除き、レム睡眠のときはほとんど活動しません。しかし、イレギュラーなのがドーパミンです。ドーパミンは、レム睡眠のときだけでなく、覚醒しているときも、ほかの覚醒系のシステムと比べて活発には動いていません。

 それでもドーパミンが覚醒系のシステムとして備わっているのは、動機付けの強い、あるいは緊急時等の強制覚醒のためだと思われます。

 たとえば、夜中に電話がかかってきて、知り合いの誰かが亡くなったと伝えられたら、一瞬で目覚めるはずです。ただその行動は、自然な睡眠サイクルではありません。ドーパミンは、そういう「いざというときに使う」システムなのでしょう。

 だから覚醒させる薬のほとんどは、ドーパミンに作用するものが多いのです。ドーパミンの作用を増強する薬を使えば、無理やり起きることができるからです。

 もっとも強力なのが覚醒剤です。

 ドーパミンに限らず、ノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質は、放出後に使われなかったものは細胞内に戻して再利用します。この再取り込みをブロックすると、細胞外の濃度が上がり作用が亢進(こうしん)([作用が]高いレベルに進むこと)します。

 そういうタイプが覚醒させる薬で、日本でも使われているモダフィニル(商品名は「モディオダール」)は、比較的マイルドに作用します。

 アンフェタミン等の覚醒剤の場合は、神経細胞からドーパミンを放出させ、さらにギュッと絞り出すので、もの(すご)くパワフルなのです。そのときに得られる、いままで経験したことがない陶酔感や多幸感が依存への引き金になります。そして、繰り返し使うことでその感覚が忘れられなくなり、肉体依存だけでなく、精神依存にまで陥ると考えられています。

 覚醒系のシステムに関しては、最近になってわたしたちが長年研究を続けてきた「ナルコレプシー」という睡眠障害の研究とも関連して、覚醒系全体を制御するオレキシン(ハイポクレチン)という神経ペプチドが発見されたことも特筆する必要があります。それは、1998~1999年のことでした。

 睡眠と覚醒は相互に制御していて、片方が強くなると片方が弱くなります。睡眠と覚醒は表裏一体、交互に起こるものなのです。

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