メタAI
概要 †
ゲーム内に用いられているさまざまなAI(人工知能/英: artificial intelligence)のうち、一段階高いレイヤーから、他のAIをコントロールする役割をもつもの。ゲーム内の状況を俯瞰的に見て、キャラクターAIや地形や天候など他のゲーム要素に指示を出すことで状況を作りだすAI。ディレクターAI、あるいは神様AIと呼ばれる場合もある。キャラクターAI、ナビゲーションAIとともに、現代のゲームAIを構成する3つの主要な要素のひとつ。
1980年代に見られたゲームAIは、プレイヤーのゲームプレイスキルを判断してゲームの難度を調整することで、ユーザー体験のダイナミズムを作るというシンプルなものであった。2000年代後半からは、メタAIがプレイヤーの緊張度など、ゲーム内の状況をモニタリングすることで、敵の生成や配置、出現のタイミングなどをコントロールするという形で、より深くゲームシステムに干渉している。また近年ではプロシージャル技術により、マップやサブイベントを生成するなど、メタAIの役割の幅は広がっている。
現代のゲームAIとは、プレイによって絶えず変化するゲームの動向をモニタリングしながら、エージェントを動的に配置して、指示することでゲームの流れを作るものである。
※『Left 4 Dead』におけるメタAIの事例(三宅陽一郎氏・作)
歴史 †
1980年代から現代に至るメタAIの開発史は、古典的メタAIと現代のメタAIのふたつの時期に分けて考えられる。
古典的メタAI期 †
代表的なゲームタイトルは『パックマン』(ナムコ/1980年)、『ゼビウス』(ナムコ/1983年)など。
国内外のゲームAI開発者や研究者のあいだで、『パックマン』はゲームAIの始祖と呼ばれるタイトルであり、現在でも研究の対象になっている。
『パックマン』のゲームデザインを担当したナムコ社の岩谷徹は、プレイヤーのスキルを判断することで難度を調整するセルフゲームコントロールシステムを考案。これを受け、プログラマーの舟木茂雄が敵キャラクターの挙動を開発した。舟木はプレイヤーのコントロールミスの頻度などをプログラム側がモニタリングすることで、プレイヤースキルを判断させた。モニタリングで得た情報をもとに、AIが敵の挙動にダイナミックに干渉する発想こそが、本作がメタAIの元祖とされる所以である。
また、1981年4月に岩谷は、セルフゲームコントロールシステムに関するレポートをまとめ、動的にゲームの難度を変えるノウハウをナムコ社内に共有した。その背景には、開発者とプレイヤーのプレイスキルの乖離によって、結果的に市場に合わない難度のゲームが出てしまうことを防ぐという課題があった。
これを踏まえたうえで、同じナムコ社の遠藤雅伸らによって『ゼビウス』が開発され、1983年にリリースされた。『ゼビウス』には、プレイヤーユニットが撃破されると徐々に出現する敵が弱いものに戻る、敵出現テーブルが実装された。
現代のメタAI †
現代のメタAIは、より積極的にゲームに干渉する。プレイヤーの移動経路や技量に応じて敵の生成数や配置を変えることに加え、キャラクターやゲームイベントなどを動的に変えたり、ダンジョンマップやサブイベントのシナリオなどを自動に生成したりする。さらには敵側のエージェント(キャラクターや仕掛け)と味方側のエージェントの行動をどちらもコントロールすることで、「プレイヤーのピンチに味方が駆けつける」など、プレイヤーから見て、よりドラマチックなゲーム体験を演出することもできる。
現代のメタAIも古典的メタAIの流れを汲んではいるが、前述のようなゲームへの強い干渉は、キャラクターAIをはじめとする諸要素の発展を待たなければならなかったため、その進歩は断続的であった。現代のメタAIに至る進歩の分岐点となったタイトルは『Left 4 Dead』(Valve Software/2008年)とされ、ここで使用されたメタAIはいまもなおゲームAIのデファクトスタンダードになっている。続いて、『Warframe』(デジタル・エクストリームス/2013年)、『ファイナルファンタジーXV』(スクウェア・エニックス/2016年)などにも応用され、適用事例が増えている。
メタAIが発展した背景はいくつかあるが、ひとつにはインターネットの普及が挙げられる。かつてのゲームはゲーム内で起きることが完全にプログラムされた状態で出荷されていたため、何度プレイしても敵の出現パターンやダンジョンマップが変わることはなかった。こうしたいわゆる「覚えゲー」の時代が続いたが、インターネットの普及以降は、他人の体験がすでにネット上で確認できるため、プレイヤーに新鮮な体験を提供しづらいという問題が生じた。だが、キャラクターAIとナビゲーションAIを制御するメタAIの発展により、プレイするたびに異なる挙動を示す敵や様変わりするダンジョンを攻略する楽しみを生み出すことが可能になった。
開発会社にとっての切実な課題もメタAIの進化を促した。コンシューマーゲームの制作においては、ハードウェアの進化に伴い、高騰する開発費が課題になっていた。欧米を中心にしたAAAタイトルの多くはオープンワールド形式のものが増え、物量を埋めるため、開発に莫大な費用がかかる。それを解決する鍵のひとつがメタAIだ。たとえばメタAIはマップをプロシージャル技術で自動生成しつつ、みずから解析してナビゲーションメッシュを作り、そこにさらに敵を配置し、シンプルなサブイベントを自動生成することもできる。このシークエンスによって、開発費は大幅に削減できるようになった。
関連項目 †
キャラクターAI
ナビゲーションAI
プロシージャル
分散人工知能
参考文献 †
- The AI Systems of Left 4 Dead (外部リンク)
- AI Postmortems: Assassin's Creed III, XCOM: Enemy Unknown, and Warframe (外部リンク)
- Valve's Approach to Playtesting: the Application of Empiricism (外部リンク)
- Biofeedback in Gameplay: How Valve Measures Physiology to Enhance Gaming Experience (外部リンク)
- [CEDEC]「FINAL FANTASY XV」のレベルメタAI制御システムがもたらすキャラクター・モンスターの自然な挙動とは (外部リンク)
- FINAL FANTASY XV におけるレベルメタAI制御システム (リンク先、ログイン後のみ資料取得可能)
- 『人工知能の作り方 』 (三宅陽一郎 著/技術評論社)
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