アフォーダンス
概要 †
人や動物に対して環境が提供する価値や意味を指す。アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンが1960年代に提唱した概念で、「〜できる、〜を与える」という意味のafford(アフォード)という動詞を元にした造語。
※ギブソンの提唱したアフォーダンスについては『生態学的視覚論―ヒトの知覚世界を探る』に詳しい
たとえばイスは、多くの人間にとっては座るための物であり、ときには高い場所にある物を取るときに乗る踏み台としての価値を持つ。しかし猫にとっては寝床や隠れ場所となるかもしれない。このようにアフォーダンスは、知覚者と対象となる物の関係によって変化する。
アメリカの認知科学者ドナルド・ノーマンは、1988年の著書『The Design of Everyday Thing』(邦訳『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論(新曜社認知科学選書) )で、「アフォーダンスはユーザーに知覚されない限り存在しないに等しい。従ってデザインにおけるアフォーダンスは、ユーザーに特定の行動を促すように設計されるべきだ」と提唱した。それによってアフォーダンスの概念は、デザイナーやUI設計者などを中心に広く普及することになった。
ゲーム開発におけるアフォーダンスの役割 †
ゲームにおいてプレイヤーは、「その環境においてどのような行動ができるか」を、ときに瞬時に判断する必要がある。フィールドを歩き、強敵や敵の群れが突如現れた場合に、「近くにある茂みは隠れ場所となるか?」、「安全地帯となる高台に登ることができるか?」などの判断が死活を左右するからだ。このようにレベルデザインにおいて、アフォーダンスを考えることは不可欠である。
キャラクターAIを作るうえでも、知能と行動を結びつけることができるため、アフォーダンスは重要となる。ゲームにおいてアフォーダンスの情報は、各オブジェクトに行動リストとして埋め込まれる。たとえば部屋の中にイスがあった場合、「この方向から座れる」、「動かせる」、「持ち上げられる」、「その上に昇れる」といった具合に、キャラクターがそのイスに対して何ができるかがリスト化されている。キャラクターAIは、そのアフォーダンス情報をもとに、イスに関わる行動を選択するのだ。
さらに、このようなオブジェクトだけではなく、キャラクターが所持しているアイテムもアフォーダンス情報の埋め込み対象となる。ハシゴは深い谷に架けて渡ることができ、回復アイテムは仲間のHPを回復できる。このようなアフォーダンス情報を持つことで、自律型AIとして行動するキャラクターAIは行動の幅を広げられるようになるのだ。このように、敵のキャラクターであれ味方のキャラクターであれ、キャラクターAIによって自律的に行動するエージェントの行動は、ゲーム内の環境が彼らに与えるアフォーダンス情報によって規定される。
ゲーム開発における参考事例 †
『Halo2』におけるアフォーダンスの事例 (外部リンク)
※リンク先の「Dude, Where's My Warthog: From Pathfinding to General Spatial Competence, D. Isla, Invited talk, Artificial Intelligence and Interactive Digital Entertainment (AIIDE) 2005」よりダウンロード可能
*『モンハン日記 ぽかぽかアイルー村』におけるアフォーダンスの事例(外部リンク)
- ぽかぽかアイルー村における、アフォーダンス指向のAI事例。AIに多様な振る舞いをさせる手法 (リンク先、ログイン後のみ資料取得可能)
関連項目 †
参考文献 †
- 『人工知能の作り方』 (三宅陽一郎 著/技術評論社)
- 『アフォーダンス――新しい認知の理論(岩波科学ライブラリー)』 (佐々木正人 著/岩波書店)
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